「君は笑わなくなったね。」











ああそうだ、彼は良く笑い、良く泣き、良くも悪くも彼は確かに人間だった。






「なんでだろうね」




それは僕の中で初めて生まれた人間らしい感情だった。




そうだ、僕はね、君が一部になってしまえばいいと思っていた。













そうだ、僕はね、君がそうやってずっとここに居れば良いと思っていた。
















でもそれは少し違ったのかもしれない。










「こんな形で手に入れたかったんじゃないんだよ。」





そうだ、こんな卑怯な形で手に入れたかったんではない。






軽く、それだけは変わらない明るめの栗色の髪を撫でると硬質に輝く翠の目を見た。


それはあまりにも硬く、あまりにも窮屈そうだった。


僕はただその目の見つめる先きにあるのが酷く悲しいものであるのも透けて見えた。




何が間違っていたのか、過ちを犯すのが人間ならば、過去を思うのが人間ならば、

彼はあまりにも人間であり過ぎた人間を信じ、人間である事を捨てた人間を憎んだのかもしれなかった。





「笑っていますよ。俺は。」









そうやって微笑むのは、それらの人間を確かに愛した彼だった。そうだ、それは過去形だった。


ああ、又僕だけに見せるのか、その窮屈そうな笑みを



窮屈だろうとそれでも。


僕だけでも構わない。









あの時、もう確かに彼は誰にも微笑まないのだと確信した自分はなんて人間らしくなんて醜かったのだろうか。




それは僕の中で初めて生まれた人間らしい感情だった。